言説の領界

ちくま学芸文庫で『ミシェル・フーコー講義集成』の文庫化が始まった。これから4ヶ月に1巻のペースで全13巻が発売されるとのこと。このうちの5巻は単行本で持っているが、残りは長らく絶版で、内容的に極めてアクチュアルだったコロナ禍の時、つまり、生政治 Bio-politics について考えたかった時に読めなかった(図書館は常に貸出中、古書は1冊数万円もして買わなかった)ということもあり、特に嬉しい。

本集成は1970年12月〜1984年6月にコレージュ・ド・フランスで行われた「思考諸体系の歴史」講義の記録で、1969年刊行『知の考古学』において人間中心主義的歴史解釈の批判に一区切りつけてから、死の89日前にあたる最後の講義までのフーコーの思考の流れを追うことができる。

コロナ禍、戦争、地球温暖化、AI等によって、個人の自由を前提とした社会の限界が明確になった現在、1966年にいち早く「人間の終焉」を語ったフーコーの言葉を辿ってみたいと思い、文庫の発売にあわせて読んでいくことにした。

まず第1巻収録の初回講義の1週間前に行われた開講講義から(こちらは河出文庫『言説の領界』収録)。

1970/12/02開講講義

私は本日、自分が行う仕事の場面を定めるために – あるいはおそらくほんのいくつかのつかの間の舞台を定めるために – 一つの仮説を提出したいと思います。その仮説とは、あらゆる社会において、言説の産出は、いくつかの手続きによって、すなわち、言説の力と危険を払いのけ、言説の偶然的な出来事を統御し、言説の重々しく恐るべき物質性を巧みにかわすことをその役割とするいくつかの手続きによって、管理され、選別され、組織化され、再分配されるのだ。というものです。

『言説の領界』M.フーコー著 慎改康結之訳 (河出文庫)

今日我々(自由主義社会、なかでも日本)は基本的に「言論の自由」を享受して生きていると思われているが、(当時の)フーコーは、そんなことはなく、言説はほとんどの人が意識できない以下の手続きで管理されているのではないかと言う。

 権力的:禁忌・分割 → 真理への意志

 認識的:聖典化(注釈)・モノ化(作者)・システム化(研究分野)

 従属化的:規則化(儀礼)・密室化(言説結社)・正統化(教説)・占有化(教育)

なかでも重要なのは「真理への意志」と「教育」で、分かりやすい後者から言うと、我々は義務教育において、どんな時に、誰に対して、どのように発言して良いかを体で習得し、これに失敗すると以後誰にも相手にされなくなる。そして前者については古代ギリシアの話になる。

真理が、効果的で儀礼化された正義の言表行為から、言表そのものの方へ、つまり、言表の意味、言表の形式、言表の対象、言表とその参照物との関係の方へと、自らの位置を移動させる日がやって来たということ。ヘシオドスからプラトンとのあいだで、真なる言説と偽なる言説とを分離するある種の分割が打ち立てられたのです。これは新たな分割です。なぜなら、以後、真なる言説は、もはや高価で欲望をそそる言説ではなくなるからであり、もはや権力の行為に結びついた言説ではなくなるからです。ソフィストが追い払われるということです。

『言説の領界』M.フーコー著 慎改康結之訳 (河出文庫)

つまり、もともと真理とは、神の代理人や王が語ったこと(言表行為)自体であったのだが、プラトンによって真理は「その言説が意味するもの(内容)=述べた者の思考」の中に宿るものに変更されたのだと言う。(だからトランプ大統領が非難される)

そしてプラトンがそう語った理由、また、なぜその考え方(認識の倫理)が今現在もほとんど問われることなく通用しているのかというと

真理への意志のなかで、真なる言説を語ろうとする意志のなかで作用しているのは何かと言えば、それは、欲望と権力以外の何ものでもないということです。

『言説の領界』M.フーコー著 慎改康結之訳 (河出文庫)

真理は神の代理人や王の専有物ではなく、真理を欲し、真理を明らかにできる能力がある者に与えられるべきという、権力への意志に貫かれているからなのだと言い切る。

このようにフーコーは、我々は我々が思っているように、諸権力に操作されることのない自由な言論環境の中で、無色透明な真理をベースに生きているわけではなく、(第二次世界大戦後の高度成長期が終わり様々な社会問題が噴出した1970年当時のフランスの状況を考えるには)過去に遡って検討し直す必要があり、そのためにこれから以下を行うと言う。

まず、我々の真理への意志を問いに付すこと、次に、言説に対してその出来事としての性格を返還すること、そして最後に、意味するものの至上権を取り除くことです。

『言説の領界』M.フーコー著 慎改康結之訳 (河出文庫)

「Post-truth」時代と言われる今現在を考えるうえでも役立つだろう。

https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309464046

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